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No.45 忘れがたい地

※ 編集部注:2006年9月7日(木)発行の『神戸新聞』夕刊「随想」に発表したエッセイが、
多くの地元のかたがたに、ことのほか好評でしたので、
全国のみなさまにもお読みいただきたく、「フロムユミ」で紹介させていただきます。

夏の終わり、久しぶりに西宮・夙川カトリック教会を訪れた。
強い日差しに照らされた教会を見上げながら、
CDの制作のためにテレマン室内管弦楽団とのリハーサルを
この地で行なってからもう12年も経つのだと、感慨深く思った。
あの夏の暑さも格別だった。
そんな中、朝早くから日が暮れるまで細部にわたる練習を連日積み重ね、
一曲ずつ仕上げていくのは、実に体力と気力を必要とする作業だった。
しかし教会の隅の小さな練習室で、指揮者の延原武春氏やメンバーの皆さんの
真剣でかつ和気藹々とした雰囲気に助けられ、
厳しいリハーサルを乗り越えることができた。
そして神戸・灘区民ホールでのレコーディングを経て完成したCD「YUMI」は、
イギリスへの再留学の後の作品ということもあって特に心に残る一枚となり、
またそれを制作した神戸には、以来、特別な思い入れを持つようになった。
大震災が起きたのはそのあくる年のこと。
遠く東京にいても、とても他人事とは思えなかった。
たくさんの顔や美しい街並みが脳裏に浮かんでは消え・・・。
数ヵ月後、私は復興を願って開催された、
チャリティコンサート「神戸クラシックエイド」の会場、グリーンアリーナ神戸にいた。
そしてコンサートを提唱した世界的な巨匠ロリン・マゼール氏の指揮の下、
ピッツバーグ交響楽団の皆さんと共に心をひとつにして演奏した。
私にできることといえば音楽を奏でることしかなかったが、
せめて私たちのハーモニーがほんのわずかでも
人々の立ち上がる勇気につながりますように、という一心で吹き続けた。
教会の小さな部屋、3,000人もの人々で溢れたアリーナは、
共に私にとって忘れがたい地なのである。

※『神戸新聞』夕刊「随想」2006年9月7日(木)より転載
2006年10月1日
山形由美
 
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