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No.46 ヴェネツィアの光と夢

船が進むにつれ気持ちが徐々にタイムスリップしていく。
大運河の両岸に立ち並ぶ色とりどりの館が過去の栄華を今に伝える風景は、
何度訪れても、まるで夢の世界のように感じるが、
その夜は美しい満月に照らされていることもあって、さらに特別な思いで見つめた。
こんなにもこの街と縁が深くなるとは思いもよらないことだった。
日本での初共演でヴェネツィア室内合奏団の類まれな音楽性と躍動感に魅せられた私が、
すぐさま彼らの本拠地であるヴェネツィアに飛び
CDの制作を申し込んだのが、二年前のこと。
そして意気投合した私たちは、一週間かけて現地の教会で密度の濃い録音を行った。
交渉から契約、制作全般をすべて自分で行うセルフ・プロデュースという初めての挑戦は
想像を超える大きな勇気と努力を要したが、
何とか乗り越え、一枚のCDが出来上がってきたときの充実感は格別なものだった。
その後、そのCD「ルーチェ〜ヴェネツィアの光と夢〜」は思いがけないほどの好評をいただき、
日本のみならずヨーロッパでも発売されるにいたった。
そして、今年迎えた演奏生活二十周年記念ツアーとして、夏には日本各地で演奏を行い、
このたびついに、ツアー最終地であるヴェネツィアに再上陸したのである。
そのコンサートの夜、
白く高い壁面に美しい絵画が掲げられたサン・ヴィダル教会で
彼らとの響きの融合を味わいながらヴィヴァルディを奏でる私の胸には、この二年間のことが浮かんできた。
そして、彼らとなら絶対にいい音楽を共に作っていける、という自分の直感を信じ、
コミュニケーションを深めながらひとつずつ進んできたことが
決して間違いではなかったことを感じていた。
訪れた人を夢の世界へ誘う街ヴェネツィアは、私にとって夢を実現する街となったのである。

※『神戸新聞』夕刊「随想」2006年10月26日(木)より転載

※ ジュエリーデザイナー水野薫子さんがコンサートの際に、
ご自身のコレクションをご協力くださったご縁から、ホームページにも紹介していただいております。
http://www.kaoluco.com/info/index.html
2006年11月3日
山形由美
 
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