From Yumi
No.56 暑い夏・熱い音楽
今年は記録はずれの猛暑となりましたが、皆さまはどんな夏をお過ごしになりましたか?
私は熱い熱い人たちと、熱い音楽を奏でた、暑い夏を送りました。
今を遡ること2年前、ヴェネツィアは運河のほとりで
「再来年、僕の主宰するアマチュアオーケストラの演奏会で共演しませんか?」
と、レコーディングディレクターを務めてくださっていた指揮者の高橋敦さんから声をかけていただきました。
「再来年ってずいぶん先ですね」
と答える私に、
「いや〜、あっという間だと思うけど。せっかくだから吹きたい曲を吹いてくださいよ」という、うれしいお言葉。私は即座に、
「では、ライネッケのコンチェルトを是非!」
とお答えしたのでした。
その言葉どおりにあっという間に2年が過ぎ、8月12日がやってきました。その日上野は燃えるような暑さ。それなのに開演のずっと前から東京文化会館大ホール前には行列ができていると聞き、驚かされました。それはジャパン・フレンドシップ・フィルハーモニックの15周年記念演奏会にご来場くださったお客様たちだったのです。そしていよいよ開演のベルが鳴ると、オーケストラの皆さんは1年の成果を発揮すべく演奏していきました。
オープニングを飾る森英治さん作曲の委嘱作品で、すでに会場は盛り上がりを見せていました。そしてその後は、私がソロを務めます。
ライネッケのコンチェルトは数少ないロマン派のフルート協奏曲で、私の大好きな曲のひとつ。フルートの華麗さ、ロマンティックなメロディに加えて、オケの色彩感も素晴らしく、単なる伴奏形にとどまらず全員が演奏し甲斐のある曲というのが、私がリクエストした理由でした。日頃は一般のお仕事をされている団員さんは寸暇を惜しんで練習に励み、本番の日を迎えたのでした。フルートと絡まりあうように出てくるフレーズも多くありましたが、高橋さんの綿密な指揮から引き出された団員さんたちの繊細な演奏によって、私はアンサンブルも存分に楽しみながら演奏することができました。そして3楽章全てを演奏し終わった時、リハーサル・ゲネプロ全て含めて、本番がいちばん素晴らしいまとまりと起伏を見せた演奏になったことを実感し、団員の皆さんとともに大きな喜びに包まれました。
後半は長大なマーラー作曲、交響曲第5番。大変な集中力で演奏し続ける団員の皆さん、それを率いる高橋さんのエネルギーに圧倒され、袖にいた私もお客様とともに惜しみない拍手を送ったのでした。
アンコールでは、こっそりとオーケストラの団員さんに交じり、フルートセクションの席で「ロード・オブ・ザ・リング」を演奏しました。日頃経験することのないポジションでの演奏に、新鮮な気持ちを覚えました。また終わったあと指揮者にうながされ立ち上がった私を見て初めて気付いたお客様も多く、楽しい趣向となりました。
このように、プロのオケでは考えられないほどの長い時間をかけ曲を仕上げていくことは、ある意味大変贅沢な音楽へのアプローチといえるのではないでしょうか。それを指導する指揮者の情熱、それに応える団員たちの真摯な態度には敬服します。そして、その結果、音のひとつひとつ、場の雰囲気の一瞬一瞬が深く皆の記憶に残る経験となったことは間違いのないことではないでしょうか。それは私にとっても同じなのです。
滋賀・長浜で関西フィルハーモニー管弦楽団との演奏会に出演した8月25日も、暑い日でした。実は滋賀県と私は以前からあるご縁があります。デビュー間もない頃、滋賀銀行さんのイメージキャラクターに起用していただき、数年にわたりポスター、CF出演、主催公演への出演などで大変お世話になっており、当時は頻繁に滋賀を訪れていたのです。今回は久しぶりの滋賀県下であると同時に、滋賀銀行さんが現地の財団とともに主催してくださっているということで、私にとっては大きな意味がありました。私がキャラクターを務めていた頃、現場で関わってくださっていた方ともお会いするなど、とても懐かしい気持ちで演奏会に臨みました。
1ヶ月前からチケットが完売したというだけあり、藤岡幸夫さん指揮の関フィルさんの人気のほどが伺えます。藤岡さんとは10年以上前からたびたび他のオケとの共演でご一緒させていただいていますが、現在首席指揮者を勤められている関フィルさんにかける情熱は並々ならぬものがあると感じました。その熱気がやはりお客様に通じるのだな、と思いました。
滋賀の翌日には宮崎に飛び、川南町にまいりました。昨夏、榎本潤さんの指導なさる合唱団と共演させていただき、深く感動したあのコンサートにまた呼んでいただいたのです。
今回はヴァイオリンの大谷康子さんとの共演もあり、昨年とはまた趣の違う曲も取り入れながらお送りしました。子供さんからご年配のご婦人の方々による歌声と、大谷さんと私の奏でる音色が榎本さんによって導かれ、ホール一杯に響く瞬間は素晴らしいものでした。
宮崎のフェニックスに見送られ羽田に向かう飛行機に乗り込みながら、自分にとっての暑い夏が過ぎていくことを実感していました。
熱い音楽は熱いハートを持った人たちによって奏でられます。それにはプロであることもアマチュアであることも関係ないのです。そのことを改めて感じさせてくださった皆さんに深い感謝を覚えたのでした。
私は熱い熱い人たちと、熱い音楽を奏でた、暑い夏を送りました。
今を遡ること2年前、ヴェネツィアは運河のほとりで
「再来年、僕の主宰するアマチュアオーケストラの演奏会で共演しませんか?」
と、レコーディングディレクターを務めてくださっていた指揮者の高橋敦さんから声をかけていただきました。
「再来年ってずいぶん先ですね」
と答える私に、
「いや〜、あっという間だと思うけど。せっかくだから吹きたい曲を吹いてくださいよ」という、うれしいお言葉。私は即座に、
「では、ライネッケのコンチェルトを是非!」
とお答えしたのでした。
その言葉どおりにあっという間に2年が過ぎ、8月12日がやってきました。その日上野は燃えるような暑さ。それなのに開演のずっと前から東京文化会館大ホール前には行列ができていると聞き、驚かされました。それはジャパン・フレンドシップ・フィルハーモニックの15周年記念演奏会にご来場くださったお客様たちだったのです。そしていよいよ開演のベルが鳴ると、オーケストラの皆さんは1年の成果を発揮すべく演奏していきました。
オープニングを飾る森英治さん作曲の委嘱作品で、すでに会場は盛り上がりを見せていました。そしてその後は、私がソロを務めます。
ライネッケのコンチェルトは数少ないロマン派のフルート協奏曲で、私の大好きな曲のひとつ。フルートの華麗さ、ロマンティックなメロディに加えて、オケの色彩感も素晴らしく、単なる伴奏形にとどまらず全員が演奏し甲斐のある曲というのが、私がリクエストした理由でした。日頃は一般のお仕事をされている団員さんは寸暇を惜しんで練習に励み、本番の日を迎えたのでした。フルートと絡まりあうように出てくるフレーズも多くありましたが、高橋さんの綿密な指揮から引き出された団員さんたちの繊細な演奏によって、私はアンサンブルも存分に楽しみながら演奏することができました。そして3楽章全てを演奏し終わった時、リハーサル・ゲネプロ全て含めて、本番がいちばん素晴らしいまとまりと起伏を見せた演奏になったことを実感し、団員の皆さんとともに大きな喜びに包まれました。
後半は長大なマーラー作曲、交響曲第5番。大変な集中力で演奏し続ける団員の皆さん、それを率いる高橋さんのエネルギーに圧倒され、袖にいた私もお客様とともに惜しみない拍手を送ったのでした。
アンコールでは、こっそりとオーケストラの団員さんに交じり、フルートセクションの席で「ロード・オブ・ザ・リング」を演奏しました。日頃経験することのないポジションでの演奏に、新鮮な気持ちを覚えました。また終わったあと指揮者にうながされ立ち上がった私を見て初めて気付いたお客様も多く、楽しい趣向となりました。
このように、プロのオケでは考えられないほどの長い時間をかけ曲を仕上げていくことは、ある意味大変贅沢な音楽へのアプローチといえるのではないでしょうか。それを指導する指揮者の情熱、それに応える団員たちの真摯な態度には敬服します。そして、その結果、音のひとつひとつ、場の雰囲気の一瞬一瞬が深く皆の記憶に残る経験となったことは間違いのないことではないでしょうか。それは私にとっても同じなのです。
滋賀・長浜で関西フィルハーモニー管弦楽団との演奏会に出演した8月25日も、暑い日でした。実は滋賀県と私は以前からあるご縁があります。デビュー間もない頃、滋賀銀行さんのイメージキャラクターに起用していただき、数年にわたりポスター、CF出演、主催公演への出演などで大変お世話になっており、当時は頻繁に滋賀を訪れていたのです。今回は久しぶりの滋賀県下であると同時に、滋賀銀行さんが現地の財団とともに主催してくださっているということで、私にとっては大きな意味がありました。私がキャラクターを務めていた頃、現場で関わってくださっていた方ともお会いするなど、とても懐かしい気持ちで演奏会に臨みました。
1ヶ月前からチケットが完売したというだけあり、藤岡幸夫さん指揮の関フィルさんの人気のほどが伺えます。藤岡さんとは10年以上前からたびたび他のオケとの共演でご一緒させていただいていますが、現在首席指揮者を勤められている関フィルさんにかける情熱は並々ならぬものがあると感じました。その熱気がやはりお客様に通じるのだな、と思いました。
滋賀の翌日には宮崎に飛び、川南町にまいりました。昨夏、榎本潤さんの指導なさる合唱団と共演させていただき、深く感動したあのコンサートにまた呼んでいただいたのです。
今回はヴァイオリンの大谷康子さんとの共演もあり、昨年とはまた趣の違う曲も取り入れながらお送りしました。子供さんからご年配のご婦人の方々による歌声と、大谷さんと私の奏でる音色が榎本さんによって導かれ、ホール一杯に響く瞬間は素晴らしいものでした。
宮崎のフェニックスに見送られ羽田に向かう飛行機に乗り込みながら、自分にとっての暑い夏が過ぎていくことを実感していました。
熱い音楽は熱いハートを持った人たちによって奏でられます。それにはプロであることもアマチュアであることも関係ないのです。そのことを改めて感じさせてくださった皆さんに深い感謝を覚えたのでした。
2007年9月9日
山形由美
山形由美